まず、何故、私が参加者全員を代表して報告を書くようになったことから、お話しさせて頂ききます。その理由は2つあります。一つ目は何といっても、濃沼先生の講演中に突然、スライドに大きく私の名前が飛び出してきたことです。これは濃沼先生があらかじめ質問の答えを訪ねるために用意したものですが、これにはとっても驚愕しました。おそらく、他の皆さんも自分でなくて良かったと胸を撫で下ろしたことでしょう。その際、答える時間がなくて、その答えを今回書くようになったことです。もう一つは2年前、クリニカルパス学会主催のニューヨークでの勉強会に今回のコーディネーターの副島先生と私が参加しており、そのことを大変光栄にも副島先生が覚えていて下さったことだと思います。
 それでは、参加者の多くが実感したと思われる感想を述べさせて頂くことにします。済生会熊本病院のクリニカルパス見学会に参加した第一印象は「ここまで進歩したクリニカルパス」に感動した、というより、大きなカルチャーショックを受けた、本音は「叩きつけられた」ってところでしょうか。
 まず、見学会の内容について説明させて頂きます。初日の午後1時から道端由美子先生に「済生会熊本病院パス基本構造、基準設定とフォーマット」を、副島秀久先生に「アウトカム設定とバリアンス分析」を講義して頂きました。この際、済生会熊本病院ではいわゆるパス(overview)と日めくり式パスを併用する試みがなされていると紹介がありました。参加者が多くがバリアンスの分析が理解しにくいと訴えておりましたが、日めくり式パスを紹介して頂き、バリアンスの分析そのものが理解できるようになりました。その上、「綿密にアウトカムを作成すればバリアンスの分析が非常に扱いやすいものである」と実感しました。講義の後、病院を案内して頂き、実際にパスの使用現場を見学させて頂きました。日めくり式パスの運用方法などを目の当たりに見せてもらいました。

 ついで、メインであるパス大会「日めくり式パスとバリアンス分析―腹腔鏡下胆嚢摘出術パスを題材として―」に出席いたしました。ここでは、手術の一応の説明の後、日めくり式パスが説明され、これには毎日、細かにアウトカムが規定されていました。 いくつかの到達目標(包括的なアウトカム)に対して、それを到達するための重要なアウトカムが規定され、さらにそれを達するための微細なアウトカムの3つに分けて設定されていました。毎日病態に応じて設定を変えれば、1日ごとにのバリアンスが容易に把握できることに納得しました。コード化の方法もよーくわかって、これからは分析を行い、バリアンスが生じる前にくい止めるようにパスを見直さなくてはいけないと痛感しました。
 さらに、薬剤部、検査部、事務部がそれぞれに強く関わって、よりよい医療を提供する意気込みが伝わってきました。検査部より術後1日目と3日目の血算、生化学検査の結果が示され、3日目の必要性についてホットなディスカッションがなされていました。また、事務部から入院中の1日ごとに詳細にコスト計算がなされ、手術日のみ大きく利益が計上できることがわかりました。すなわち、入院日数を短くして回転を良くすれば増収となるということです。また、手術時間とコストの関係が示され、迅速な手術がより求められていることが理解できました。
 翌日は、朝早くから東北大学大学院教授、濃沼信夫先生の「医療の質管理」について講演があり、日本の医療は世界水準を大きく下回っているとショッキングな現状を聞かされました。日本における医療は、病床が世界水準の3倍で、そのため病床あたりのスタッフは3分の1しかいません。すなわち、手薄い医療しか提供できておらず、実に3分の2は不要な入院、社会的入院だそうです。そうした人々が医療費の高騰を招き、真に入院が必要な人々が入院できない現状を作り出しているのです。我々、医療人は囲い中からしか、見ていませんし、また、日本の中からしか見ていないため、自分たちはかなり優れていると思っていました。しかし、それは過去の話で今では世界から考古学者しか見学に来ないとの比喩に愕然とした次第です。もちろん、行政によるところが大きいのですが、我々も自らできることはせねばならないと奮起しました。よりよい医療を提供し、不要な医療は省かねばなりません、ここにクリニカルパスが役立つということがよく理解できました。
 以上、今回のクリニカルパス学会大会見学会の概要、および、参加者共通の感想ですが、想像以上の、非常に濃い内容で、大変満足しました。


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